婚約破棄されたので、森の奥で占いお宿をはじめます。

「ライラ、ストップ。どこへ行く気だ?」

ニヤリとしたそのちょっと意地悪な瞳は、彼もまた私が思い浮かべた、あの誰もが知る有名な話に思い至ったのだと悟った。


「ジャ、ジャレット。その我がままな王子様が、勝手な行動をしないように押さえてて」

「は?」

即座に反応できなかったジャレットの隙をついて、こちらへ向かってくるルーカス。
腕を伸ばせば届いてしまう距離になる寸前、さっと茶色いふさふさが割り込んできた。

「グノー!!」

すぐさま人型になったグノーは、私の方に振り返ると、「ん」と拳を突き出してきた。相変わらず、言葉数は少ない。

とりあえず、彼の拳の下に手を広げた。そこにポトリと落とされたのは、綺麗な包み紙のキャンディだった。


「お疲れ、ライラ」

は、はじめてだ。
グノーの口から、これだけ連なる文字が紡ぎ出されたことってこれまであっただろうか?いや、なかったはず。

「ありがとう、グノー」

キャンディはもちろん、グノーにしてはたくさん話してくれたことが嬉しくて、思わずその手を取っていた。


「あっ、おい、アライグマー!!なにをしている!!」

喚くルーカスは、ジャレットが背後から取り押さえている。