それから他愛もない会話をしながら、ゆったりとした時間を過ごしていた私たち。


 夜景の見えるレストラン。

 小さな頼みのお礼に、サプライズ。


 メインの料理が運ばれてくると、ふと思い返してしまい、急に可笑しくなった。


「ん?何?」

「千秋さんって、意外とロマンチストですね。」


 私は妻でも、偽りの妻。そんな相手に、自然とこんなおもてなしができてしまうのは、生粋のロマンチストかもしれない。


 でも、不覚にも、少しだけキュンとした。

 本物の千秋さんの妻だったら、きっと惚れ直しているところだろうと、一瞬妄想を膨らませる。


「笑うなら二度としない。」

 照れたように、ナフキンで口元を拭う。その表情には、なんだか得した気分だった。

「すみませんっ。」

 私はまた笑みを浮かべ、ワインに口をつける。

 彼を見ていたら、この結婚も悪いものではなかったかもしれない。そんな能天気な思いが、頭をよぎる。