その時、なんとなく、彼が私を選んだ理由が分かった気がした。

 私は、彼を好きにならない。お互いの目的のためにする偽装結婚。それは、割り切った関係。

 きっと、それが彼の望む形だった。


「初めて顔合わせた時、君は俺のことを一瞬で苦手認定した。」

「あ、いや、それは......」

「結局さ。普通の結婚したら、どうやっても言い出すんだよ。本当に愛してるの?って。でも、この結婚なら違う。腐った家族から抜け出したい女と愛のない結婚をしたい男。最低最悪の結婚条件だけど、今の俺らにはぴったりじゃないか?」


 その時、なんだか急に怖くなってきた。知らない男の部屋で、私は何の話をしているのだろう。

 突然我に返り、冷静になった。


「私、帰ります。」

 近くに置いてあったカバンを手に取り、立ち上がる。

 お見合いを回避したいってところから、どうしてこうも話が逸れていったのか。こんな突拍子もない話をさっきまで普通にしていたなんて、自分でも不思議だった。

「じゃあ、諦めるんだ。お見合いするの?」

「違います。でも、あなたと結婚しないことは確か。普通に考えて、昨日今日初めて会ったような人とこんな話して、結婚だなんてありえない。普通じゃない。」

 半ばムッとしながら、そう言い放つ。真面目に話を聞いていた自分が、馬鹿みたいに思えた。