司会の声も半分に、またちらほらと見える知った顔にドキッとする。

 以前は父について、こういったセミナーに出席していたものだ。そう懐かしく感じていた私は、それからマイクを通して聞こえた名前に、思わず耳を疑った。


「そして、瀬川総合病院。瀬川院長。」


 聞こえて来た名前に、顔を上げる。急に空気が薄くなったように、呼吸が浅くなっていった。


 久しぶりに見た父の顔。

 会場の1番前で席を立ち、後ろに向かって一礼。きっと私の顔なんて見えてないだろうけれど、目があった気がして、パッと下を向いた。


 だが、動揺のタネはそれだけではなかった。


「これから、新薬を用いて行ったリハビリテーションの治験結果。具体的にもたらす効果や危険性、質疑応答など順に進めて参りますが。始めに、我が社の代表取締役社長――」


 思わず、視線が一点に固まる。

 進行の声と共に、壇上に向かって歩き出した一人の男性。その後ろ姿を見た瞬間、一気に心がざわついた。

 震える手を両手で押さえ合いながら、愕然とする。



「藤澤 千秋より、ご挨拶させていただきます。」



 私は言葉も聞かず、会場を飛び出していた。