悲しい言葉とは裏腹に、だんだんと綻ぶ表情。

「そんな境遇が、私たちを引き寄せ合った。お互いの傷を舐め合うみたいに、本能的に......」


 思わずそう続けた瞬間、頭が真っ白になった。


 私の顎をそっと引き寄せ、微かな感触を残したまま添えられた指。唇に触れた柔らかいものが、私の時間を止めた。

 突然のことに、目を閉じるのも忘れる。

 数秒のことが、果てしなく長い時間のように続き、思わず、息をすることさえ忘れるほど。


 それは、ただ触れるだけの、優しいキス。


「大丈夫。晴日ちゃんは、俺とは全然違うから。」


 いつの間にか、止まっていた時間は動き出していた。

 唇にあった感触は離れ、千秋さんは顔を背ける。背中越しに語る彼は、何事もなかったかのようにそう言う。

 思わず、あれは夢だったのかとさえ思った。

 放心状態の私が、ただただ混乱して黙っている中、また口を開いたのは彼の方。


「似てるようで似てない。俺みたいに見捨てられてない。だから、大丈夫。親に絶望したのは、......ただ家族への愛が強すぎたからだよ。」


 ――家族への愛

 私の人生にはまるで縁のないような言葉が、突然降りかかってきた。誰か他人の話でも聞いているかのようで、上手く言葉を飲み込めずにいた。