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規則正しく呼吸をするイリアの頬に落ちた髪をそっと払うと、ヒューリは自分の膝の上で眠る彼女を見つめていると自然と笑顔が零れていることに気づく。

誰もそれを咎めないというのにも関わらず慌てて咳払いをして、一つ息を吐いた。

ヴァイルも眠りに落ちたイリアを見て安心したのか、大きく翼を広げ体の緊張を解していた。

ひたむきに何かと向き合う彼女の姿はキラキラしていて美しいが、このように無防備に寝息を立てている彼女もまた愛らしい。

「……」

赤く染まったその唇から紡ぎ出される自分の名を聞く度に、心が踊るのは彼女が持つ不思議な力のせいなのだろうか。そっとその唇に触れてみたくなって、ゆっくりと親指でその形をなぞる。

しっとりとしたその感覚にヒューリは擽ったくなるのにも関わらず、なぞるのを辞めはしなかった。

ーーいっそこのままずっと、ここに居てくれればどれ程嬉しいことか。

イリアが懸命に頑張る姿を常に見ていたい、そんな気持ちがいつの間にか芽生えていたのだ。

ただイリアにもこことは別の世界での生活があるのは十分承知している。だから、何も言わずに送り迎えをヴァイルと共にしている。

森から遠ざかっていく彼女の小さな背中を見つめる度に、連れ戻したくなる感情に駆られるのをヒューリは必死に抑えていた。

「頑張るイリアの姿は、誰よりも輝いているからな」

寝ている彼女に向かってそう呟くが、ただぐっすりと眠る呼吸の音がヒューリの耳には届いた。もう一度頬を撫でてその感覚を体に覚えさせ、ため息を零す。