そこで再び指南書の内容がふと頭を過ぎる。

『汝、相手に頼れる者と伝えるべし。

信頼してきる証は何よりも重要なものである。

お互いの関係の構築に必需品と言っても良い』


女の力では出せる力は男には勝てるはずもない、ならここは頼るべき貴重なチャンスだった。満面の笑みを浮かべながら、ヒューリにここぞとばかりに頼み込む。

「ヒューリ、頼みたいことがあるの。ちょっとここを強く締めてほしいんだけど……」

必殺上目遣いを駆使しながら頼むが、何一つ普段と変わらない様子であっさりと用件を飲み込み作業に取り組んでいく。

取り付けが上手く出来ないのか押さえていてほしいという声掛けに、咄嗟に動いたが彼の逞しい身体がすぐ横にあることに気づく。

引き締まったその身体についつい見惚れてしまう始末。

「よし。出来た」

「あ、ありがとう……」

「俺には出来ること限られているかもしれないが、思う存分頼ってくれていいから」

頼り頼られるそんな関係であることは前々から分かっていたことだというのに、今更改まってそれを思い知らされるとまたしても妙にむず痒い。

相手の気持ちを揺るがすものが記されていると思い込んでいたものの、その効果をまるで感じられない。

寧ろこちら側が変に意識してしまう羽目になるばかりで、ため息をつくことしかできない。