「同じようなことを言われたことがあるんだけど、なんかソワソワしてしまうというか、擽ったいというか……これはどうしてなのかしら」

「お姉様、それは誰かに言われたのですか?!」

その問に素直に地下世界で暮らしている人とは言えず、思い浮かぶ友人の顔もなく笑って誤魔化すしか出来ずにいると、アゼッタの口角が意味ありげに上がった。

「お姉様にもそんなお方が現れたのですね……!」

「ち、違うの!昔の……そう!一緒に研究していた人に言われたことがあるの!」

何故かヒューリの顔が思い浮かんでは消えず、顔の熱は抜けることはなくますます顔から火が出そうなほど熱くなっていく。

必死に誤魔化してみるがそれが通用したのか分からないまま、アゼッタはどこから取り出したのか恋愛指南書を膝の上に乗せた。

「令嬢の流行も一通り堪能したことですし、これからは勉強のお時間です。お姉様」

慣れた手つきで指南書のページを捲り、開いたページを示しながらイリアに音読を迫った。

書かれている内容は『相手をこちらに意識させる方法』というもので、声に出してみてもその内容は頭に入ってこない。

「小さなアピールからコツコツ相手の気持ちをゲット……?」

「そうです!お姉様!この本に書かれてることを実践してみてくださいませ!きっと、いや絶対心を射抜くことができます!」

イリアに負けじと熱く語るアゼッタの瞳がキラキラと輝いていて、その眩しさ故にしっかりと顔が見れずそのまま再び本へと視線を戻す。

「これを頑張って実践すれば、嫁ぎ先も見つかるのよね……」

「焦る必要はありません。恋に正しいものは何一つとしてありませんから。その異性の方とどう距離を縮めていくかはお姉様次第です」

「……」

書かれた内容をどのようにやっていけばいいのかは分からないが、やってみることに越したことはないと強く頷いた。