「こんにちは。お姉様、エルメナ様」

輝かしいその笑顔に魅了される寸前の所で、イリアは食いつくようにエルメナを見つめた。

「これは、その、どういうことですか?」

「本日は女を知るための日……ということで、外に出てもらいます。その手の知識はアゼッタ様にもありますので、どうぞ姉妹仲良く楽しんできてください」

「行きましょう、お姉様」

そっと手を取られたイリアは戸惑いながらも席を離れ、持っていた恋愛指南書をしっかりと抱きしめながら、手を引かれるまま歩き出す。

オドオドとした彼女の様子にエルメナはわざと咳払いをして気づかせると、慌てて背筋をピンと伸ばして部屋を後にした。

そんな二人を見送り一人残されたエルメナは、ふと窓の外でゆったりと流れる雲を見つめながら小さく呟いた。

「頑張るのも程々に……ですわよ。イリア様」

遠ざかる足音にかき消されるように、その声は宙を舞ったのだった。