「す、すみません。注意不足で……」

「注意不足というよりも、意識の問題ではなくて?」

「えっと……その、失礼ですが、あなたは?」

何を指摘されているのかも分からず、誰かも分からないこの状況にとりあえず手っ取り早く答えが得られそうな方からイリアは攻めることにした。

その質問に女性はわざとらしいため息を零すが、それすらも一枚の絵として見惚れてしまいそうになるのを必死に堪えた。

そして一輪の薔薇が咲き誇るかのような美しい潤った赤い唇が、その名前を紡ぐ。

「私ははエルメナ・セルベット。今日から貴女様の、教育係を任された者です。以後お見知りおきを」

「教……育?」

首を傾げるイリアを無視して、手に持っていたお茶会に参加する旨を書いた手紙が抜き取られ、女性ーーエルメナの手元で手紙の端がくしゃりと小さく悲鳴を上げた。

「エリー様から直々に私めに一般的なレディに仕立てるように頼まれました。今日からお茶会に参加するための常識、そして……」

美しい顔の眉間に微かにしわが寄りイリアを見つめるその瞳は、獲物を捉えた猛禽類のように鋭い。

顔にしわが寄っては美しい顔も台無しになると、心からそう思ったが口に出したら完璧に狩られるそう思ったイリアはごくりと唾を飲み込んだ。

「殿方を狩るための女の作法を徹底的に伝授して参りますので、どうぞよろしくお願い致します」

有無も言わさないと言わんばかりの圧力が襲いかかってきて、抵抗したら何が起こるか分からないと五感が察知した。