普段からイリアの用件といえば、研究に使う怪しげな道具やはたから見たらガラクタのような物ばかりを要求していた。

そんな中、イリア自身から未来の旦那に嫁ぐための準備をしようと決意を示してきたのだ。エリーが用件を飲むのは当然とも言えよう。

ただイリアには今まで渋い顔しかしてこなかったエリーの顔が、今日は穏やかに見えた。それが何よりもイリアには嬉しく思えた。

今にも鼻歌が零れそうな状態で自室にたどり着いたイリアは、早速お茶会に参加したいという旨を手紙の筆を走らせた。

イリアにとって初めてのお茶会はどんなものなのかまだ予想もつかないが、気合いだけは十分だと念じて蝋封で封じた。

「よし。できた」

出来上がった手紙に汚れがないことを確認して、街の郵便局へと向かう準備を整えようとしたが部屋の入口に人の気配を感じて廊下へと出る。

「わっ!」

相手がこちらに入ってくるタイミングと被り、ぶつかる寸前の所で身の動きを止めて急ブレーキをかけた。

ふわりと漂う甘い香りにシンプルなセピアブラウンのドレス調のワンピースに身を包み、きっちりとまとめられた光沢のあるブロンズヘア。

鼻筋の通った美しい顔は、エリーに負けず劣らずと言ってもいい程の美しさがあった。

見慣れないその美しい女性に釘付けになるように見つめていると、女性は一つ咳払いをして近い距離を一旦離す。

一先ずぶつかりそうになった詫びを入れようと、ドレスの裾を持ち上げようとしたイリアの手に女性が指をさした。

「レディとしての意識が低いにも程がありましてよ、イリア様」

透き通る声の中にしっかりとした芯のある声に、自然と背筋が伸びてしまったイリアは頭を下げることしかできなかった。