「初めまして、イリア・バーリアスと申します。どうぞイリアと呼んでください」

令嬢としての嗜みの一つ、必殺笑顔で自己紹介を決めたイリアだったが、二人の動きは余計に固まってしまった。

どうしたものかと考えた結果、鞄から書物を取り出して二人に見せつけた。

「私は地上でネグルヴァルトについて研究していた中、この本を見つけてーー」

ここまでに至った経緯を簡単に話せば少しは打ち解けられるだろうか、というイリアの考えはすぐに成功へと繋がった。

その書物を見るや否や、二人はヒューリを押しのけイリアの手を取った。

「初めまして、イリア!あたし、ナル!ルガの双子の姉よ!気軽にナルって呼んで!!」

「は、初めまして」

「僕はルガ。どうぞよろしく」

「ど、どうも」

急な勢いでやってきた二人に置いてけぼりを食らうイリアに、肩を震わせて笑いを我慢するヒューリが見えた。

「夢見たい!地上人に会えるなんて!しかも、古代書物まで!」

「この本のこと知っているの?!」

「僕達は古代文字、マタトゥール語について色々調べている変わり者なんだ」

「変わり者だなんてそんなことないわ!私、すっごくこの本のことについて知りたかったの!!」

ナルとルガの熱い視線に負けないくらい、イリアも熱量を放出させていると、ヒューリが三人の勢いをとりあえず落ち着かせるように声をかけて、家の中へと引き連れた。

「言いたいことはお互い山ほどあるんだろうが、とりあえずイリアにこの世界のことについてざっくり話したい。話す場所を提供してもらってもいいか?」

「もちろんよ!お茶を出すわね。ルガ、あんたはヴァイルに水をあげてきて」

ナルがテキパキと仕切る姿を見てイリアの高ぶった気持ちも徐々に落ち着きを取り戻し、そのイリアの姿にヒューリは一つ頷いて部屋の暖炉の前へとイリアを座らせ、このカデアトについて一つずつ話し始めた。