普段なら朝起きてのんびり眺める新聞も読めるはずもなく、表になった一面に書かれた『魔女の仕業か?興奮状態から瀕死状態に陥る者続出』という見出しを眺めることしか出来なかった。

ーー出迎えって……今日は誰と会う予定だったんだっけ?

されるがままの状態で昨日の晩食時の会話を思い出そうとするが、どうやら話を聞いているふりだけして他の事を考えていたらしい。まったく思い出せないことが分かり、即座に考えるのをやめた。

「今日会う殿方は、一体どのようなお方かしら」

独り言のように呟いたイリアだったが、これはイリアの一つの戦法だ。殿方を想う貴族令嬢、周りは自然とそう思うはずだ。それにまんまと引っかかった侍女の一人が、結い上げた髪を整えながら口角を上げた。

「デイバート公爵家の跡取り、ユイン様……噂ではとても柔和な方とお聞きしておりますよ」

「まあ……素敵な方なのね」

目を伏せてその殿方を思い浮かべるような仕草をしつつ、イリアは頭の中では情報を整理していた。