だが、イリアにはその魔法とやらは御伽噺でしか聞いた事のないものだった。

「そこも詳しい話をした方が良さそうだ。まずは帰還報告をしに行かなきゃいけない場所があるから、そこへ案内するよ。大丈夫、そんな目で見なくてもちゃんと説明してあげるから着いてきて」

イリアのオタクスイッチの入った輝かしい瞳にヒューリは笑って見せると、そのまま広大に広がる草原を歩き始めた。ヴァイルもその横に寄り添ってゆっくりと着いて歩く。

その光景が夢のようで、肩に掛けていた鞄の中からロットが書き記した本を手に取った。

「お父様……私すごい所にたどり着いたかもしれない」

本に微かに染み付いた書斎の香りがイリアの胸のドキドキを落ち着かせてくれたが、見えるもの全てが彼女の好奇心を掻き立てていくばかり。

本の表紙の手触りを確認して再び鞄の中へと本を戻すと、体内に溜まっていく熱量を吐き出すかのように、ヒューリの後を追いかけた。

広大なこの草原の奥にはいくつかの森や、朽ち果てた遺跡の跡地が転がっていて、地上ではまず見ない光景ばかりがイリアの視界に飛び込んでくる。

見るもの全てを記憶しようと情報を頭に入れつつ、見たことの無いものを目にすると自然と足が止まる。

だがヒューリは彼女を置いていくことはなく、イリアの歩調に合わせるようにゆっくりと進んでくれた。