神秘的な領域にイリアは高鳴る心臓を抑えるべく、深呼吸をしたその時、ドラゴンが嬉しそうに一つ鳴いた。

ふとドラゴンの方へと視線をやれば、地面に横たわるあの青年の姿も一緒だった。どうやら意識を取り戻したらしい。青年の体勢を整えるべく、イリアは青年の頭を抱きかかえて、自分の膝の上に乗せた。

「うっ……」

薄ら目を開けた青年の瞳はマラカイトのような深い森のような輝きを持ち、光を吸い込んだ青年の瞳にイリアが溶け込んだ。

「大丈夫?」

「ここは……」

「えっと、私もよく分からなくてーー」

イリアが辺りを見渡して状況を説明しようと試みるが、青年は顔を顰めながらもドラゴンの元へと駆け寄った。ドラゴンも嬉しそうに青年に顔を擦り付けては、甘えるように短く鳴いた。

「ヴァイル!お前怪我は……!」

「キュー」

言われた通り怪我をした翼を青年に広げて見せると、青年は隈無くドラゴンの翼を見て触った。だが、何一つとして異常がないことに安心した青年は、優しい笑顔でドラゴンの顎を撫でた。撫でられて気持ちがいいのか、ドラゴンも穏やかな表情で青年に甘えた。

そんな微笑ましい光景を一人眺めていたイリアだったが、そんなイリアに向かって青年が突然近づいてきた。

「それで?この子は一体誰なんだ?」

真っ直ぐな目で見つめられたイリアは、何も悪いことはしていないが背筋が真っ直ぐに伸びてしまう。その目の真っ直ぐさに吸い込まれそうになるのを、必死に堪えてイリアは口を開いた。

「えっと、私は……」

「キュー」

まじまじと観察する青年にドラゴンが声をかけたのか、少しだけ青年の目が見開くと、すかさずイリアに近寄った。