イリアの知識があってこそ収束した今回の事件だったが、ドラゴンを薬物による錯覚にしようというライジールの提案は却下した。

確かに今すぐドラゴンのことを世界に周知させようとするのは、大きな危険が伴うのは承知の上だった。

しかしイリアはここから先の未来に、ドラゴンがいる未来があってほしいと願わずにはいられない。

夢にまでもみた人とドラゴンの地上での共存が、すぐ目の前にある。

やって来るその“いつか”に向けて、今は少しでも誰かの記憶に綺麗な鱗を輝かせ大空を司るドラゴンがいてほしかったのだ。

うーんと一つ大きく太陽に向かって伸びをして、すやすやと寝ている人々に小さく微笑んだ。

この場ではもう何もすることはなくなったと医者に持ち場を離れることを伝え、外へと出た。

騒ぎがあったせいか王宮内は慌ただしくしているのが見て取れて、ライジールに声を掛けに行くのをやめた。

ふらふらと無駄に広い王宮の中を歩いていると、風が吹き付けてくるのと同時に後ろから声がした。

「ここに居たか」

「ヒューリ、おはよう」

太陽の下で初めていうその挨拶に新鮮さを感じていると、ヒューリも挨拶を返す。