そうでもしなければイリアもその場で泣いていただろう。
愛する家族とほとんど会えなくなってしまうその辛さに、胸が張り裂けそうになった。
頬を伝う涙を拭い流れる景色を横目で見つめながら、辛いのは今だけだと何度も心の中で唱える。
家族に会うことも、大好きな研究もいつかできる日がやってくるはずだとそう信じて泣くのを止めた。
ーーネグルヴァルトのある理由だけ突き止められなかったけれど、嫁ぎ先もカデアトでの治療法も見つけられた。両方成し遂げた自分を誇らなきゃ。
くよくよしている時間が勿体ないと、これまで通ってきた道を小さく振り返りながら前を見つめた。
揺れる馬車が目指す先を見つめながら強ばった体を解すように深呼吸を続けていくと、自然の多かった道は家々が連なり、行き交う馬車の数も多くなっていく。
見慣れた景色がどんどんと変わっていき、城下町を抜けついには王都へと辿り着く。立派な建物が並ぶ街並みに目を凝らすが、街を歩く人々の数が少ないように思えた。
清く正しく栄えた街と謳われる王都だというのに何故か活気がない寂しい街が、イリアの視界に飛び込んでくる。
日陰の中に隠れるように王都全体に、生気を感じられないのだ。
違和感を覚えながら王宮を守護する巨大な城壁の門をくぐり抜け、広大な土地に堂々と構える豪華な王宮の全貌が姿を表した。
白とマリンブルーを基調とした王宮はイリアを待ち構えるように、入口の扉を開けていた。



