お披露目会だというのに、育て親のナリダムとエリーの付き添いはなしという残念な王子から指示に肩を落とす。
まだ社交界デビューを果たしていないイリア一人で王家の者に挨拶をしなければいけないという過度の緊張が身を硬直させる。
立ち振る舞いは普段通りでいれば大丈夫だとエリーは励ましてくれたが、それは舞踏会では通用しなかったのだ。
オタクスイッチが入らぬようにすることだけを考えていれば、何とかなるというナリダムの助言も怪しい。
ただここまで育ててくれた二人には迷惑をかけぬようにすることだけが、イリアの最後の試練なのだ。
窓の外を見れば泣きじゃくるアゼッタをあやすエリーも、ナリダムに体を預けている。
「……気をつけて行ってくるんだぞ」
「貴女らしくいれば大丈夫よ」
「はい。頑張ります」
「おねっ……お姉様!お姉様ぁあ!」
「アゼッタ、行ってくるね」
力を振り絞るようにとびきりの笑顔を三人に向けると、馬車がゆっくりと動き出す。
遠ざかっていく三人の姿に背を向けるように座り直すと、イリアも堪えきれなくなって涙を静かに流す。
お披露目会という名で呼ばれてはいるものの、一般的に王宮に迎え入れられたら、外には余程のことがない限り出られないのだ。
今日が最後になるわけないからと皆にはそう言い聞かせてきたものの、嘘をついてしまったことを悔やむ。



