何かやっていれば気が逸れるはずだとひたすら周りに生えている森の植物を集め、薬を作っていくが縦穴をチラチラと気にして見てしまう。
ーーヒューリに婚約者が出来たことをちゃんと目を見て話せるかな……。
伝える自分を想像するが、逃げ腰になってしまうような気がしてならない。
だが、伝えないわけにはいかないのだ。明日からまともに来なくなったらヒューリは心配するに決まっている。
「好きだって言ってくれた笑顔でちゃんと言わなきゃ」
心のどこかで自分の事を忘れないでいてくれればそれでいいと、願わずにはいられない。
いつかの日にこの場所のことを語り合える誰かが現れたその時には、きっと彼のことも話してしまうのだろうと小さく笑う。
どうしてもヒューリの事を考えながらの作業になってしまう事に気づき、諦めてあれやこれやを思い出しながら薬を調合した。
だが空がほんのりと明るくなりつつあるそんな時間になっても、ヒューリは現れることはなかった。
鞄からメモを取り出し、少しだけ覚えたカデアトの言葉を書き記し調合した薬草が入った瓶を重しにし森を後にした。
『国の王子と婚約することになりました。また会えるその時には、今と同じように仲良くしてくれると嬉しいです』
そう書き記されたイリアの残した手紙は、風に連れ去られるように空へと舞ったのだった。



