後ろからナリダムもやって来て、エリーの隣に立つとそっと彼女の背中を支えた。

どうしてこんなに慌てているのか検討もつかないイリアを、ナリダムは真剣な眼差しで見つめる。

深呼吸をして決意を固めたエリーから発せられた言葉に、自然とイリアの目は見開いた。

「伯母様……?それは本当ですか?」

「間違いじゃないわ。貴方の婚約者が決まったの。拒否権は無いに等しいわ」

「でも縁談も何も無しにですか?伯母様も、その様子じゃ今知ったのでしょう?」

「相手が相手なんだよ、イリア」

震える手で渡された手紙を何とか力を込めて受け取ると、押された真っ赤な封蝋に記された刻印に頭が追いついてこなくなる。

使えなくなった頭を置いて、体だけを動かしてその手紙の中身を取り出した。

規則正しく綺麗に綴られた文字を目で追いかけながら、高級感のある紙質が手にまとわりつく。

『突然の申し出になってしまったことをまず詫びよう。ただ君が生涯僕を支えるに相応しい人だとあの場で確信したんだ。君を僕の妻として迎えたい。明日、お披露目会をしたいと思っている。王宮にて待っているよ。

エルドゥタール国
第二王子 アルロス・マキタリア・エルドゥターフ』

覚えのある名前があるのだけは頭が処理できたが、それ以外について何も考えることは出来ない。

この国の王子ということを容易に受け入れられるはずもなかった。