イリアが立ち去ってしばらくして、その場から離れずにいたヒューリは近づいてくる複数の足音に苛立ちを覚えながら、ヴァイルを自分の隣に来るように指示を出す。

完全にイリアの足音が森を抜けたことを確認したヒューリは、短剣を腰に巻いていた布の中に隠すように入れる。

これからやって来るその時に向けて、心構えだけはしっかりとしていた。

嘘か誠かこの目で判断するため、そして大事な人を守るためにヒューリは自ら足音に向かって足を動かす。

「お前まで巻き込んですまなかったな、ヴァイル」

「キュ」

「本当に俺の相棒がヴァイルで良かったと心から思うぞ」

「キュー!」

「さあ……何処からでも来い!」

ヴァイルの咆哮と共にヒューリも叫ぶと、森が自らの意志を持つかのように揺れた。

森の奥から光る何かを捉えた次の瞬間、鼓膜を大きく揺らす銃声が森全体に響き渡る。

どこか遠い地まで届くような澄んだヴァイルの鳴き声だったが、その声はイリアには届かないでくれとヒューリは願ったのだった。