見えてきた死の入口と称されるネグルヴァルトに、一月前のことをふと思い出した。
この森の研究を続けてきて突如現れたドラゴンという存在に驚き、そのまま連れていかれた場所は地下に広がるもう一つの世界、カデアト。
ヒューリと出会い、ナルやルガとも出会い、そしてそこに住まう人々と出会った。
そうしてガラリと変わっていった生活にドキドキしていたのが、今ではもうすっかり当たり前の日常へと染み付いていた。
睡眠時間は未だに削ってはいるものの、それでも両方の世界の新しい発見や楽しみを知ったイリアには、そんなことはどうでも良かった。
未知の事に触れ、それを知って経験する過程が何よりも楽しかったのだ。
そんな生活がもし、嫁ぎ先を見つけてしまえば……全て終わってしまう。
カデアトの流行病に着いては凡その検討がつき、対処法となる薬とドラゴン達の装具も完成し、今ではヒューリの暮らす村の人に伝授済みで、彼らで対処が出来るようになった。
日中には令嬢としての立ち振る舞いや基礎的マナーを学び、伯爵家の令嬢として恥じることの無い彼女へと生まれ変わった。
残すはネグルヴァルトの存在意義を見つけるのみ。
イリアの求めていた結果が目前であるというのに、心に靄が掛かり晴れてはくれない。
ーーこれで良かったはずなのに、なのに……。
順調に進んできた自分の道を振り返ると幸せが満ち溢れていて、先に待ち受ける未来を遠回しにしたくてしょうがなかった。



