伝わる体温と鼓動の音が聴覚と触覚を刺激し、しっかりと機能を果たしていることに驚きしかなかった。
これは幻というものではないのだと、体が告げていた。
「ヒューリ?!どうしてこんな所にいるの?!私、今日は向こうには行けないって言ってたのに……!」
見上げれば優しい笑顔を向けてくれる彼の顔がそこにあって、好きだと認めた彼女の体温は一気に上がる。
「迎えに来た」
嘘も何もない一言を告げたヒューリは、どこか嬉しそうな顔をしている。
「どうして私の場所がここだって分かったの?」
「イリアが俺の名前を呼んだから」
「キュッ」
庭園の茂みの奥からヴァイルも顔を出し、二人揃って共犯者でもいいと言っている様子だった。
「誰かに見つかったらどうなるか分からないのよ?!」
「俺たちの事はどうでもいい。イリアの切ない顔なんか見たくないから、だから帰ろう?」
イリアの心配なんぞ知りもしない素振りで、ヒューリがヴァイルを呼ぶとその背に跨っていつもの様にイリアに手を伸ばす。
その手を取らない理由なんか何一つもないイリアは、涙を拭いてしっかりと掴んだ。
羽ばたくヴァイルに身を預け、イリアはこの地上での空の旅へと旅立つ。
そんなイリア達の姿を暗闇から覗く一人の人影が、怪しげな笑みを浮かべたとも知らずにーー。



