ここまできて両方とも投げ出してしまうのは絶対に出来ない。
研究は最後の最後まで突き通せば達成出来ても、嫁ぎ先は無理矢理諦めるしか方法がない。
家族に迷惑は掛けないと決めた以上、自分の感情だけで振り回すのはここまで育ててきてくれた伯父夫婦に失礼極まりない。
頭ではそうだとは判断している。この気持ちに蓋をしなければ行けないと言うことを。
「でも、どうやって簡単に好きなものを振り払えっていうの?」
出来ることなら今すぐにでもやって気持ちを切り替えていたが、その方法は見つけることすら困難だ。
苦しい感情がイリアに牙を向けるように近づいてくる。
突然やって来る寒気に肩を震わせながら、その感情と戦っていた……その時。
「イリア」
大好きな人の声が彼女の名前をそっと呼んだ。
恐怖に襲われ遂に頭が機能しなくなってしまったのかと、自分を腹立たしく思ってしまう。
ぼやける視界に映り込むのは紛れもなく彼の姿で、最後の救いを求めるように彼に手を伸ばす。
その手が引っ張られて温もりに包まれたのを感じたのは、一瞬の出来事だった。
背中に回された腕に込められた力はいつにも増して強い。



