ネグルヴァルトの森に似た空気感がここにはあるが、あの安心感を与えてくれる存在はここにはいない。
研究に付き合ってくれるあの大きな存在達も、どこにもいない。
一人だけ取り残された小さな世界に居るということが、イリアの胸に棘を突き刺していく。
「ヒューリ……」
堪えきれなくなったイリアはその名前を吐き出した。
たかが一日会っていないというだけでこの切なさと悲しさに襲われるというならば、嫁いでもう二度と会えなくなるとなったならば心はどうなってしまうのか考えただけでも恐ろしかった。
イリアの長い長い研究の途中経過の話も、突然閃いた考えも何気ない日常の話も、全部楽しそうに聞いてくれるのは彼だけだった。
そして何より彼の与えてくれる安心感は誰にも生み出すことは出来ないのをこの身で知ってしまったのだ。
「私、ヒューリの事好きになっちゃったんだ……いつの間にか彼に夢中になってたんだーーこれが、恋なんだ」
痛い程にヒューリに焦がれてしまうのは、彼の持つ優しさと明るさだけでない。
共有する時間が楽しさしかなかったり、誰にでも平等であったり、出来ないことを一緒に手伝ってくれたり……考えれば考えるほど、ヒューリの好きなことばかりが思い浮かんでしまう。
これ程までにヒューリに恋をしていたことを、今になって知ってしまった。
ーー知らない殿方の所に嫁ぎに行くの……?こんなにもヒューリが好きなのに?
向き合わなければいけない現実に目を逸らしたくなるが、研究も嫁ぎ先も成し遂げてみせるという目標を立ててしまったのだ。



