何故がカビ対策もバッチリされていたお陰で、本への損傷はまったくない。ゆっくりと持ち上げ膝の上に置いて、取り出した二冊の本をイリアはまじまじと見つめた。

一冊の表紙には見覚えのある字で、ロットの研究したものを綴った書であることが分かった。だがもう一冊の本には、生まれてからこの年齢にしては膨大な量の本を読んできたイリアにも読むことのできない文字が綴られていた。

世界中の研究論文を読むのにも文字の知識は必要だと教わり、幼少期から世界各国の文字の読み書きを取得しているイリアだったが、知っている文字のどれにも似つかない文字だった。

「なんだろう……これ」

予測して文脈を捉えようと試みたが、どれもこれも何もかも当てはまらない。とりあえずこの本は後回しにして、もう一冊の確実に読める本へと目を動かした。
一つ言うなれば、読める本であるにも関わらず書いてある内容にイリアの頭はまったく着いてこなかった。

『この世界の本当の真実ーードラゴンについての研究をここに記す』

そこに書かれている文字は大好きな父の字であることには間違いないのに、イリアは安心感よりも焦りが湧いてくるばかりだった。

世界のためになる研究や発明を誰よりも愛していて、非現実的なことを追求しても結果は人間のエゴを込めた希望論しか生まれないのだと語っていた父の姿はちゃんと覚えている。

だと言うのにだ、この世には存在していないドラゴンについて父は密かに研究をしていたのだ。イリアはこの本をどのような心構えで読んでいいのか分からず、冒頭のその文字だけをひたすら何度も読み返した。