下唇を噛み締めて音楽が早く終わらないかと願ったその時、踊る二人にぶつかってきた令嬢にわざと青年から引き離された。
バランスを崩したイリアはそのままその場で尻もちをつき、痛みに耐えながらその令嬢を見つめた。
「ロスカー様、大丈夫ですか?」
座り込むイリアを無視して青年、ロスカーに歩み寄る令嬢はベタベタとロスカーに触れ何事も無かったことに大袈裟な息を着く。
「こんな取り憑かれた女にダンスを申し込まれたのでしょう?この女、幾度と縁談に来てくださった殿方を誘って自分の実験台にしようと試みているという噂があるのです」
何のことかさっぱり分からないイリアは否定することすら出来ず、ただ呆然と見下してくる二人の姿を見つめた。
「そ、そうだったのですね」
「知らないうちにロスカー様がこの女に操られてしまうかと思ったら心配でいてもたってもいられなくなって……」
必殺上目遣いで相手の腕を組む戦法を食らった、ロスカーは頬を赤らめながらそっと令嬢との距離を縮める。
完全空気になってしまったイリアはこの場は退散した方が良さそうだとゆっくりと立ち上がった。
「見て、彼女よ」
「ああ、噂の悪魔を蘇らせたとかいう?」
「それで悪魔に取り憑かれているらしいぞ」
「汚らわしい。近寄らないでほしいわ」
渦巻くイリアに対する噂を悪用した言葉達と、冷たい視線はいつの間にかイリアの周りに集まっていた。



