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月夜の晩に静かに響く軽やかな笑い声は、王都に近い領地を統括するカナルトア侯爵家の屋敷から伝わっていた。

煌びやかなシャンデリアがフロアいっぱいに光を反射させ、色とりどりのドレスがその色を誇張させるように靡く。

優雅な弦楽器の奏でる音に合わせてステップを踏む年頃の男女には、品の漂う笑みが垣間見える。

音楽に合わせながらドレスのスカートの舌で、イリアは軽くリズムを取りながらその光景をただ眺めていた。

ーー本当に、私ってば明らかに浮いちゃってる。

舞踏会に招待された旨をエリーに伝えると、気合いに満ち溢れた彼女にされるがまま衣装に着替え化粧を施されやって来たイリアではあったが、ここに集う者達が纏う空気がまるで違う。

イリアも磨けば十分美しさは秘めているものの、堂々と出来る自信をまだ持ち合わせてはおらず、この会場内の空気を吸っていると、しゃんとしているだけでも足が震えそうになるのだ。

それも当然、“社交界デビューを間近に控えた者達”が自由に集まっているこの舞踏会は、どうやら練習の場として設けられたものであったらしい。

この国の社交界デビューは国王陛下の誕生祭ーーつまり半年後に本格的に始まっていくため、それに向けて他の貴族との交流の場でもある。

ようやくお茶会に参加可能程度に成長したイリアには、事件が違いすぎたのだ。

この場の真実を先程知った彼女は、なるべく注目されないように壁際で息を潜めながらステップの脳内反復練習を繰り返していた。