ーーあんなイリアの顔を見たら……抑えきれなくなる。

この我慢している気持ちを彼女に伝えてしまいそうになるのが、恐ろしかった。

その言葉を紡いだら大好きなあの笑顔が、もう二度と見られなくなるのではないかと、そう思ってしまうほどに。

自分はただ彼女の研究に付き合っている、研究対象としか見られていない……そう自分に言い聞かせるしかなかった。

考えていても仕方ないとヒューリはゆっくりと起き上がり、むしゃくしゃする感情を投げ出すようにヴァイルの肩を軽く叩いた。

「キュー」

「いいんだ。俺たちはこの世界とは交われない」

頑張って研究を続けるイリアが、いつか大空へとドラゴン達を羽ばたかせたいと言ったあの言葉が嘘だとは思っていない。

ただそうでも言わないと、イリアと自分の関係が続いていかないような気がしたのだ。

研究のためにカデアトへと足を踏み入れる彼女の訪れる理由がなくなってしまうのだけは、嫌だった。

子供のように駄々を捏ねる自分に、鼻で笑いながらヴァイルの背中に跨る。

元来た道へと戻ろうと合図を出そうとした時、ヴァイルが低く唸り声を上げる。

森の奥から薄らと見える人影に、ヒューリは静かに睨みつけたのだった。