「私はいつか本物の空を皆に飛んで欲しい」

それが何年、何十年、何百年と掛かろうとも、イリアは出来ることを精一杯やってみるつもりではいた。

研究を馬鹿にするような言葉達を怖がって、自分の殻に閉じこもっていた彼女だったが外の世界にも案外味方がいることを知った今、出来ないことはないと確信していた。

「ドラゴンの研究を積み重ねていく上で、どんどんドラゴンの事もこのカデアトの事も好きになってしまったの。研究対象なんかで見れない、もうここは私の大事な場所よ」

「イリア……」

「流行り病を食い止めるための薬はできた。でもその根本の原因は、きっと地上から吹いてくる空気に問題があると睨んでいるの」

ネグルヴァルトの異常なまでに濃い霧に含まれる毒素は地上の人間を脅かすだけでなく、風に乗ってここに辿り着いていると前々から仮説を立てて研究を進めていた。

少なからず大きな縦穴のネクリアの崖に生育している森の植物達は、毒素を吸って成長する。

その植物達がカデアトへと続く道で時折見つけていたのだ。

「原因を突き止められても次はどうやってそれを対処していくか、まだ分かってないんだけど……でも私にやれることは精一杯やってみる」

「ありがとう、イリア」

ナルに抱きしめられていると、後ろからヒューリが顎に手を添えてジロジロと見つめてきた。