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その日の夜もイリアは自分の庭のように、カデアトへと足を踏み入れていた。

ヒューリに迎えに来て貰って早々、今日あった出来事を次から次へと話すがその勢いは止まることを知らない。

そんな彼女のてんこ盛りな話を、ヒューリは一つ一つ楽しそうに聞いていてくれた。

ーーやっぱり、ヒューリといるとあれやこれやと話しちゃうなあ。

仮に自分が誰かの話をずっと聞かされるのを想像すると、途端に申し訳ない気持ちになるが、いざ彼を前にするとそれをどうしても忘れてしまうのだ。

明日の舞踏会では決してそんなヘマはしないようにしなければと思いながら、研究の拠点となる小屋へと辿り着くと神妙な面立ちで、ドラゴンについて書かれた書物を見つめるナルとルガがそこに居た。

あまりにも真剣なその空気感に近づくのを躊躇ったが、やって来たイリアの気配にようやく気づいた二人が顔を上げた。

「どうかしたの……?」

「イリア、ようやく全てを翻訳できたわ」

「本当に?!」

「ただ……一頁だけ切り取られていて森についての重要な記述が抜け落ちているんだ」

開いたままの状態で書物を手渡されると、二人の言う通りその頁が乱暴に切り捨てられている。