幼き少女は、いつも隣にある大きな父という存在に憧れを抱いていた。彼の生み出した物が街を、国を、世界までもを変えていくその凄さに吸い込まれていくように。

ただ彼女の父は凄いことを生み出しても高い地位を与えられても、決して誰かを蔑むことも威張ることもなかった。名誉という物は彼にはどうでも良かったのだ。そんな姿も少女には、輝かしく見え、そして誇りだった。

そんな父の背中を見て育った幼き少女もまた、同じ道を歩むべく勉学に励んだ。いつか一緒に父の隣で何かを成し遂げたい、その思いが少女の中で熱く燃え広がっていた。

「いいかい、イリア。知識というものはどれだけお金を費やしたとしても、全てが手に入るものではない貴重なものなんだ。その知識をどう生かして次の問題にぶつかっていくか、それが我々発明家の勤めなんだよ」

優しく微笑んで少女ーーイリアに伸ばされた大きな手は、これまでいくつもの発明品を生み出してきた神の手と称されている。その手に掴もうとイリアもゆっくりと手を伸ばす。

イリア、イリア……どこからか少女の名を呼ぶ声が聞こえてくるが、イリアは振り返ることはしなかった。

ーー私もいつかお父様のように、すごい物を生み出してみせるから、どうか……お父様。

掴みかけたその手が霧に包まれたかのように消えてなくなり、自分の名前を呼ぶ声がやけにうるさく響いてイリアは小さく後ろを振り返った。

もう一度父の姿を探したイリアだったが、もうどこにも憧れの父の姿はなかった。