「良いですかシンシア様。聖女というものは常に民衆の手本とならなくてはいけません。あなた様のように朝から廊下を全力疾走したり、身を清めるためのお風呂を拒否したりなんて前代未聞です。聖女というものは品行方正で完璧な存在なのですから」
 そこまで言われると自分の行いに負い目を感じてしまう。しかし、それで簡単にほだされるようなシンシアではない。
「あら、リアンたら聖書と鉄の掟の読み過ぎで妄想と現実の区別がつかなくなったの? この国には私しか聖女はいないのに。一体、現在進行形でどこにそんな聖女が存在するの?」

 頭は大丈夫? と付け加えると、とうとうリアンがこめかみにピシリと青筋を立てた。
「いたんですよ! あなたと違って歴代聖女はみーんな慎ましくて清らかだったんです!! もっと聖女らしく振る舞ってください!!」


 シンシアはリアンから視線を逸らして唇を尖らせると、絶対そんなの嘘だと心の中で反論する。
(聖女らしくって言っても、歴代の聖女にだって苦手なものとか怖いものの一つや二つはあったはずよ。それこそ自室に戻れば祭服を脱ぎ捨てて下着姿でお尻を搔きながらベッドの上で横になって、ぐうたらしていたかもしれないわ)

 人間誰しも完璧ではない。きっと歴代の聖女はリアンにその姿を見せていなかっただけで、陰ではきっと曝け出していたはずだ。絶対そうに違いない。