宮殿の薬師は中級以上の魔力を持っている。小瓶を開けなければ瘴気に気づかないにせよ、使用する際にそれが魔瘴核だと気づくはずだ。いみじくもこの薬は討伐部隊を陥れるために作られたことになる。

 そもそも魔瘴核は帝国騎士団の手で中央教会に運ばれ、聖女によって清浄核へと清められ厳重に管理される。
 管理されている場所は神官クラス以上かつ、ヨハルの許可がなければ立ち入ることはできない。つまりそれは教会内に内通者がいることを示している。
 現状についてどうヨハルに報告すべきか逡巡していると扉を叩く音が聞こえ、カヴァスが中に入ってきた。


「イザーク陛下に拝謁いたします」
 跪こうとする彼を手で制し、本題に入るよう促した。

 形式的な敬礼をやめたカヴァスは肩を竦めてみせるとフランクな態度を取る。
「待たせて悪かったね。シンシア殿だけど、私の情報網や追跡能力を駆使しても見つけることはできなかったよ」
 その答えを聞いてイザークはあからさまに落胆した。


 カヴァスは英雄四人のうちの魔法使いであるフォーレ公爵家の人間だ。ランドゴル伯爵家と違い、精霊女王から与えられた力は脈々と受け継がれている。