ロッテはトレードマークの栗色の髪のポニーテールを靡かせながら、近くの木に向かって「おーい」と声を掛けた。すると、一匹のリスがするすると降りてきた。そのまま軽やかな足取りでロッテの肩に乗る。

「先輩方に紹介します。この子はこの中庭に長い間住んでいるリスさんです。他の動物たちとも顔が広い子なのでいろんな情報を持っているんですよ。例えば、誰かさんが廊下の装飾品の一部を誤って壊したけど隠蔽したとか。宿舎で他の侍女の部屋に忍び込んで物を盗んだとか。あとは……婚約者がいるのに同僚の侍従と逢瀬を重ねているとか、ね?」

 たちまち、三人組の侍女の顔色が真っ青になった。
 その後もロッテは『誰かさん』と言いながらも暴露されては困るような隠しごとを延々と話し続けた。終いには侍女たちは手と手を取り合ってガタガタと震えている。


「……それで、素敵な先輩方は私に何のご用でしょうか?」

 にっこりとロッテが微笑めば、三人組の侍女たちは無言で踵を返してしまった。
 ロッテはリスにお礼を言ってポケットからクルミを渡すとシンシアに向かって片目を瞑ってみせる。

 シンシアは若草色の瞳を細めると再びロッテと色とりどりの花が美しく咲く中庭を歩き始めたのだった。