「薔薇も、どこまで覚えているか分からないし……」
ぐしゃりと、グレンはその顔を歪ませ思い返すのは、まだ彼が幼き頃の記憶だ。ある時、少しの事情で今住んでいる城とは別の、かつて己の住んでいた屋敷から数日抜け出さざるをえなくなった彼は、夜も深まった頃、街を徘徊していた。
そんなときに、運悪く人さらいに見つかり、腕を切られたのだ。幸いグレンのある体質上事なきを得たが、人に腕を切られたことで悲しみを覚え、おぼつかない足取りで屋敷と屋敷の間を潜り抜けるように歩いていると、とある屋敷……ハーミット家の庭園で、少女と出会い、彼は救われたのだった。
そして、その少女こそ、昨日からグレンの侍女としてこの城に勤めることになったルネリア。ルネリア・ハーミットその人だった。
厳密にいえばグレンの侍女としてこの城におびき出される形となったルネリアであるが、当のグレンはといえば、呼び出しておきながら彼女と再会をするという心づもりを、全くできていなかった。



