【完結】吸血侯爵と没落メイドの囚われ初恋契約


 ルネリアを案内し終え、厨房に入ったこの屋敷の主、グレン・メアロードは一人項垂れるようにして、机に手をついていた。

 どんな時でも淡々と与えられた仕事を全うし、血も涙もないと周囲から評価を受け、感情など欠片も存在していないと言われるグレンであったが、今現在彼は、たった一人の娘の機微によって、その感情をめまぐるしく変化させていた。

「鼻で笑うのはやりすぎたか……? しかし、彼女は俺に感謝すべきではない。俺は嫌われなければならない。彼女に感謝されるべき存在ではない。それをきちんと、彼女に理解してもらわないと……」

 その腕は、裏切り者を粛正するための剣を振るう為だけの腕とされ、その脚は、敵の元へ素早く辿りつく為だけに生み出された脚。そんな風に評価されるほど事務的に、ある種童話に出てくる機械人形のように淡々と動いていたグレンは、ひたすらに指を彷徨わせ、うろうろと何年も使用してきた厨房を、まるで勝手が分からぬ料理人のように歩き回る。