「そうじゃないです。僕に行ってほしくないか聞いているんです」
 



私の答えに満足いかなかった彼に、前のめりになって詰め寄られる。


常木さんの唇に私の手が触れていて、引っ込めようにも力じゃ叶わない。誰か私に模範解答をおしえておくれ。



「…え、えっとお」



私がもたもたしていると、常木さんがホストとは何たるかを教えたくれた。

例えば……女の人とお酒を飲んだり、肩に手を回して話をしたり、時にはアフターという仕事もあるらしい。


アフターとはなんぞや、初めて聞いた言葉だったので詳しく聞きたかったけれど、まんまとはぐらかされてしまった。



「肩に、手を……」


そんなことまでするのか、と愕然とする。


私が今まで体験した、仲良しこよしで肩を組んで歩きましょ〜、というのとはまた別次元の話なのだろう。

大人ってやつは、と私は顔を赤らめた。



「で、どうなんですか?」



常木さんが畳み掛けて言う。



これは行ってほしくないと言うまで堂々巡りになるやつだ、とやっと察した私はおずおずと言った。



「い、行ってほしくないなあ……」




これだけお膳立てされた状況だと逆に羞恥心がむくむくと膨れ上がり、通常より恥ずかしい気持ちになった。