「いつまで顔を覆ってるんですか。着替えたので帰りましょう」
「ほ、ほんとに着替えた? 早くない?」
「ええ、着替えました」
近くで声が聞こえたと思ったら、顔を覆っていた手を常木さんに剥がされた。
「ふぇ?」
「男の着物はそれほど時間がかからないんです。慣れてしまえば簡単です」
すっかり、いつもの着流しの着物に着替えた常木さんが目の前に立っていた。
思わず、かっけえと声を漏らしそうになった。
好きだと気づけば、盲目に。
これが私のモットーである。
改めて見ると繁華街というところは夜なのに朝のように眩しい。
私は夜を目一杯吸い込み、大きく深呼吸を繰り返す。
賑やかな喧騒からぬけ出した頃、後ろを振り返るとそこだけが異様に明るかった。
まるで不夜城のように繁華街が夜に浮かび上がる。



