金髪のお兄さんに手招かれた。私がついていこうと足を踏み出した時
突然、常木さんにぐいっと腕を引かれ、すっぽりと腕の中に収まる形になった。
「変なことしたら許さないから」
常木さんは金髪の人にそれだけ言うと廊下のつきあたりの部屋に入っていく。なんだったのだ今のは……。
ぽかんとしていると「こっちだよ」と苦笑いしながら金髪の人が案内してくれた。
向こうが少し薄暗かっただけに蛍光灯のあかりがちょっと眩しい。
ロッカーが壁際にへばりついていて、中央に長椅子が置いてあるいかにもなスタッフルームだった。
椅子に腰を下ろして常木さんがくるのを待つ間、スーツ姿の彼を思い出していた。
着物姿では浮世離れした妖しさを纏っていた彼も、スーツ姿だとまた違った美しい獣のようであった。
今の私と常木さんでは何もかもが別格で、そしてこの場にして私は場違い。
こんな惨めな思いをするのも私が常木さんのことが好きだからであって、
もし彼がホストだったとしても……この気持ちは変えられない。
──もう、手遅れなのだ。



