「ということはもしかして、私、邪魔しちゃってる?」
「いえいえ。役目といっても狐面をつけて1時間ほど鳥居の下で過ごすだけですから。
だから気を使わなくていいのです」
鳥居の下に腰を下ろした常木さんは、隣をとんとんと叩いて私に座るよう促す。
恐る恐る、短いスカートがめくれないように細心の注意を払いながら座ると
常木さんが狐面をつけ直してこちらを向いた。
「ほら、こんなふうに座ってるだけ」
「これ、楽しい?」
「うーん。どうだろう、わかんないです」
こんなにも暑いのに、涼しげな横顔で、常木さんは言った。
狐面は感情が読めない顔をしていて、
笑ってるのか、悲しんでるのか、憂いているのか、そういった感情はさっぱりわからない。
常木さんはとても落ち着いた人でおそらく滅多に驚いたりしないのだろう。
私が飛び降りを図ろうとしていると思って、驚かしてしまったこと以外は、常に平然としている人だと思う。
私のクラスや周りにはいない『静寂』が似合う人。
狐面の下には、静かな孤独があるようにも見える、そんな野暮な想像までしてしまった。



