もしかするとこの人、不審者なのでは、と思った。





しかし不審者にしては、いささか美しすぎる気がする。





サラサラの黒髪に整った顔。


手を伸ばせば、触ることなくするりと向こう側に透けてしまいそうな透明感。





いや、これは不審者の「怪しい」というより、「妖しい」感じ。





「あの、キツネさんは不審者ですか?」



考えるよりも先に口が動いていた。




さぞかし私の顔がアホ面だったのだろうか、キツネさんは口角をスッと上げて微笑み、改まった口調で言った。






「キツネさんではなくて、常木 弥白(ツネキ ヤシロ)と申します」