私は楓さんが泣いているのを見て思った以上に動揺したのは、少なからず自分がそちらになる可能性があったからだ。


私が思いを告げ、常木さんから背を向けられ置き去りにされる可能性。


それをまざまざと見せつけられたようだった。



 後から「もう少し優しく言えたのではないか」と言うようなことをさりげなく聞いてみたら、常木さんは




「あの人は僕に気があるから、あれぐらい言わないといけない」と言った。



「でも……」



 そこまで言う必要はあったの?


 常木さんは私が言おうとしたことに先回りして答えた。




「でもじゃないよ、これが僕の誠意だから。

君は優しい、優しすぎるくらいに人の痛みがわかる良い子だ。

でもね、その優しさが、その人のためにならないこともあるんだ。

誰に対しても平等とはいかない。

君に対しても、楓さんに対してもあそこで僕が言い淀んだら、
久美ちゃんは傷つくだろうし、楓さんには要らぬ期待をさせてしまう。

僕が考える限り、それは何がなんでも阻止しなければならない結果だと思う。


……それほど僕と久美ちゃんは歳が離れてるわけでもないけれど、ちょっと先輩からの言葉として聞いてほしい。

世の中にはね、優劣をつけなければならない時があるんだよ。

どれもこれも、とはいかない。

絶対一番でなくてはならないもの、それが僕にとって君だったというだけのことだ」