ええ、なんなのほんとに……
怪談話ってたかが怪談話でおさまってなきゃダメじゃないの?
実在しないでよ、というか、50年間も毎晩ヒタヒタ濡れた足で彷徨っているなんて、どうかしてるよ。
もう大丈夫か、と安心したのも束の間、次はサッ、サッと何かが擦る音がした。
ダメだって……やだよ、あんな怪談話聞かない方が良かった。
部屋の隅っこに移動して震えながら、何かを擦って歩くお化け的な何かが通り過ぎるのを待った。
じっと待つ。
そして通り過ぎたのを耳で確認すると、震える手で襖を開け、廊下を確認した。
……何もいない。すっと伸びた廊下が闇で包まれて、ただただ怖いだけだった。
左右を素早く確認すると、夕飯前に教えてもらった常木さんの部屋目掛けて、猛ダッシュした。
人の家なのにもかかわかず、全力疾走。
体力のない私のどこから湧き出てきたのか、全力疾走の甲斐あってわずか5秒ほどで到着し、閉じていた襖を思いっきり開けた。



