しかし、というか案の定というか。案内された部屋に布団は一つだけだった。
なんだ、やっぱりそうだよねまさか一緒に寝るなんてことはないか、とほっと胸を撫で下ろした。
でもちょっと残念とも思っちゃうな………むむ、鎮まれ私の邪心。
「久美ちゃん、この家は古いでしょ。だから、この家にまつわる話を寝る前にしてあげるよ」
常木さんは部屋の照明を一段落とし、妖艶な笑みを浮かべた。
断る隙もへったくれもなく、さも当然といったふうに話し始める。
困った。怪談話は大の苦手なのに……。
───遡ること50年前、この家に一人の男が住んでたんだ。
その男は毎晩、ありったけの薬を飲んで寝てた。なぜだか分かるかい?
こんなに古い家だ、その男の前にも何人も住んでいたし、何人もここで亡くなっている。
生と死が混在しているこの家は、夜になると聞こえてくるんだ、ひたひたと廊下を横切る濡れた足音が……。
「って、あれ? 聞いてる?」



