「え、なに。常木さんさっきの聞いてたの?」
「ちょっと聞こえてしまいました」
「私が鈴木さんの立場だったらこんなの絶対嫌だもん。半ば無理やり連れて来られた仕打ちがこれなんて、と思ったら……」
「良い想像力を持っていますね。相手の立場になって考えられるのは、簡単なようで案外できない大人も多い」
常木さんは私の隣に腰を下ろした。
「だから、素敵です」
常木さんに褒められて単純バカな私はうれしくなった。
暗くて見えないと思うけれど、照れてるところは見られたくないから、少し俯く。
すると、常木さんの下駄が視界に入った。
常木さんは今日もやはり着流しの着物でこんな夏の夜がよく似合っていた。



