「誰……?」


顎を引いて私はおずおずと尋ねた。



狐面の男は右手を額に近づけて覆うようにして面をとり




「あ、いや。すみません。驚かすつもりはなくて……。むしろ僕の方が驚きました」



と狐面の下には困ったような笑みを浮かべている。



「へ?」


「君がものすごい形相で走ってきてフェンスに手をかけたから……。
要するに、飛び降りちゃうんじゃないかって思ってしまったわけです」




「……それは、なんだか心配させちゃった?」



私は頭に手をやってヘラッと笑った。



「まあ、羽が生えてたら飛んだだろうけどね。生えてないから無理無理、飛べないって」



「羽があったら、飛んでたんですね」


「飛んでたねえ」



狐面の男は着流しの着物に狐面という奇妙な格好だった。