「いいや、なんにもないよ」
常木さんはふわりと微笑んだ。常木さんは残酷だ。何を考えているのかまるでわからない。
「久美、泣いてるんですけど」
真也が私に寄り添い、背中をさすってくれる。そっと肩に手がまわってきていつの間にか真也の腕の中にいた。
「………その手を離してもらっていいかな。僕が泣かせたから、僕が慰める……ほら、おいで、久美ちゃん」
ひどく優しい声が、今はすごく怖い。この人といると私はずっと妹のような立場で微笑んでいなくちゃいけない。
それはすっごく、底知れない辛さを伴うだろう。
私が恐る恐る振り返ると、手をひろげて待っている常木さんがいた。
そんな辛さがあるとわかっていても私はこの人のことが好きなんだ。



