午後。手持ちの仕事がなくなって、暇になった頃。
「愛華さん」
見計らったようなタイミングでまりこが私のもとへとやってきた。
「まりちゃん、どうしたの?」
「ちょっと相談があるんですけど、今お時間いいですか?」
タブレットを抱きしめるように抱えている。見せたいものがあるようだ。
「スリステのこと?」
「いいえ。私の企画のことです」
もじもじしながらはにかむまりこがかわいらしい。
自分の企画を誰かに見せるのを照れくさく思うのは、自分にも覚えがあるからわかる。でも。
「企画って、青木さんにサポートしてもらってなかったっけ」
「はい。そうなんですけど、愛華さんにも相談するのがいいだろうって、青木さんが」
青木さんが、私を選んだ。私の名を口に出した。
たったそれだけのことだけれど、しばらく彼の声で呼ばれるのを聞いていなかったから、その事実だけで不覚にもキュンとしてしまった。
「そうなんだ。見てもいいかな?」
「はい。ぜひ」
まりこの企画は、ハンドメイドのアクセサリーや雑貨を製作するキットのサブスクサービスだった。パーツのメーカーと提携して、女性向けに展開する。
サブスクといっても全36回の通信講座型。道具やパーツを揃えながら、アクセサリーや雑貨を製作する技術を身につけていく。
ビーズや天然石、人口宝石などを金具に繋げて組み立てるものはもちろん、樹脂粘土で食べ物を模したパーツを作ったり、レジンを使って宝石のようなパーツを作るメニューなどもあっておもしろそうだ。
「スリステのチームで仕事をしているうちにサブスクリプションサービスの需要が高いことがわかったので、こういうのもサブスクにするとおもしろいんじゃないかなって思ったんです」
「うん。すごくいいと思う」
講座が完結したあとも、パーツメーカーのショッピングサイトから好きなパーツを購入することで引き続き製作を楽しむことができる。
オリジナルで製作したものをフリマで販売できるよう、価格の付け方や写真を撮るコツなどを案内するページも作る予定なのだそうだ。



