フラれもの同士(原題:頑固な私が退職する理由)


 3月。
 いよいよ3step Nailsのサービスがスタートした。
 事前登録者に最初のシールが発送され、徐々にSNSで感想の投稿を確認できるようになってきている。
 SNSを中心に広告もたくさん出しているので、登録者数は順調に増加中。
 森川印刷の方から、早くもネイルやファッション系の雑誌やサイトから取材の依頼が来ていると報告があった。
 スタートダッシュは成功と言っていいだろう。
「もっと知名度を上げて、ネイルシールサブスクのパイオニアとして確固たる地位を築いておかないと、競合他社に真似されてシェアを奪われる」
 青木さんはそう言って、まだまだいろんなところに売り込みに出ている。
 登録者数200万人越えの美容系ユーチューバーに案件として持って行ったのが採用されて、その動画が早くも来週の始めにはアップされるらしい。そうすればまたドッと登録者が増えるだろう。
 他のユーチューバーやインスタグラマーともぼちぼち仕事が決まりつつあるようなので、これからどんどん忙しくなっていく見込みだ。
 退職まであと1ヶ月を切った私は、3月1日のサービス開始日をもってスリステの業務を完全にまりこへと引き継ぎ、チームを卒業した。
 今後は相談に乗ることはあっても、運営の意思決定に携わることはない。
 寂しいけれど去る人間として、スリステのますますの発展を願うばかりだ。

 3月に入ってからの私の業務は、引き継ぎだ。
 引き継ぎ作業自体は2月中から始めていたので、複雑なクライアント以外はもうほぼ終わっている。
 来週からは有給を消化しながら、必要最低限の仕事をリモートワークでこなせばよくなる。
 つまり、会社に来なくてよくなる。
 青木さんにも会わなくなる。
 パーティーから数日経ったが、私たちはまだ気まずいままだ。
 朝の出勤も一緒になっていない。
 私は避けているわけではないし、むしろ話す時間が欲しいと思っている。だからいつもの時間にいつものホームに行くのだけれど、青木さんはいない。
 彼の方が私を避けているのだと思う。
 理由ははっきりとはわからないけれど、司や森川社長が関わっているのだろう。